手付金と契約解除
手付金の種類でも説明しましたが、契約解除の性質をもつ手付金で「解約手付」というものがあります。解約手付は、売主買主双方が任意に契約解除をすることができます。
《民法第557条1項》
「買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。」
通常は、契約を解除するためには理由が必要となります。債務不履行などによる法律上の解除原因の発生や、契約当事者による合意解除などです。しかし、実務では、手付金を交付することで契約解除の権利を当事者が保持し続けるという方法が多く使われています。
買主が売買契約成立時に売主へ手付金を支払い、その手付金を放棄すれば買主はいつでも
契約解除をすることができ、手付金以外の損害賠償を負わなくてもよいとすることを、『手付流し』といいます。また、売主も手付金の倍額を買主へ償還することでいつでも契約解除をすることができ、手付流しと同じく、それ以外の損害賠償を負わなくてもよいとすることを『手付倍返し』といいます。
例)手付金が100万円の場合
・買主が契約解除をする場合
すでに支払っている手付金100万円を放棄することで契約解除ができる。(手付流し)
・売主が契約解除をする場合
すでに受け取っている手付金の倍額200万円を買主に支払えば契約解除ができる。(手付倍返し)
※契約において特に定めがない場合には、「手付は解約手付と推定する」という判例もあります。契約上、単に手付とされた場合、反証がないかぎりは解約手付として扱われるということが確立されています。
解除手付を交付した場合、当事者双方は要件を満たせば契約解除ができますが、いつまでも契約の解除ができるわけではありません。通常、不動産の売買契約において、契約解除ができる期日、手付解除期日というものを設定します。この期日を設定しておかないと、当事者はいつ契約を解除されるか分からないという不安定な立場に置かれてしまいます。民法では、手付解除期日を“契約の履行に着手するまで”と定めています。しかし、契約の履行に着手するまでというのは、非常に不明確で曖昧であり、トラブルに発展するケースも多くあります。そこで、不動産売買契約においては、契約日から1ヵ月前後の日を、手付解除期日と設定するのが一般的となっています。
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